まず、2012年・64歳を迎える春、アメリカ西部の荒野に広がるグランド・キャニオンやモニュメント・バレー、イエローストーンなどを20日ほどかけて、妻と二人でアメリカ西部を車で巡る旅に出かけた。英語力はお粗末だったが、旅のスケジュール、予約から運転まで、ちょっと「自立」した旅になった。
もう少しこんな旅をしてみたいと思っていたのですが、のびのびになった2年ぶりの旅は、一転、息子夫婦と4人でタイ・プーケットへ、ぐーたら旅行。
ま、足の向くまま、気の向くまま出たとこ勝負、ですね。というわけで、今回はプーケットの旅日記。
プーケットぐーたら旅行
第1日 5月28日の下
搭乗口から入国審査までトラムや長い歩く歩道を何回も乗り継ぐような超巨大な国際空港の不便さに慣らされてしまうと、日本の地方空港のようなコンパクトなプーケット空港がすごく人間臭く感じてしまう。
でも、まさかまさか。こんなにも動かない行列の洗礼を受けるなんて。
私たちが、プーケット国際空港の入国審査の列に並んだ時は20~30人の列が6列ほどだった。たぶん、私たちの飛行機の前に到着した旅客が残っていたのだろう。私たちの飛行機の乗客が列に加わって1列が40人ぐらいの列になった。列がほとんど進まないうちに、さらにさらに、次のグループがやってきた。今度は西欧風の人が多い。列はあっという間に2倍以上の長い列になっていた。
「夕方の到着ラッシュなんだね」その時は、まだ呑気だった。でも、10分たっても、20分たっても入国管理官のいるブースがはかばかしく近づいてこない。
よく見ると、どの列も一人一人にやけに時間がかかっている。手を休めずそれなりにやっているようなのだが、時間がかかる。管理官のブースの先に見える、3台ほどの手荷物引き取りターンテーブルでは、荷物の引き取り手がないままクルクル回っていたが、そのうち作業員がターンテーブルから降ろしてしまった。それでも私たちはまだブースにたどり着いていない。
1時間以上かかってやっとブースが目の前になった。ふ~。ブースには英語、ロシア語、中国語、ハングルで手作りの「歓迎」ステッカー。日本語はない、日本人って少ないんだね。
隣の列のブースで、中国人風のカップルがひっかかっている。どうやら入国カードを書いていないらしい。係官がもう1人やってきて2人がかりだ。その場で書こうとするのを、「ダメだ、列の後ろに回って所定の場所で書いてこい」と言われているみたい。何回か同じことを言われシブシブ列を離れていった。ということは、もう一度、列に並び直せということ?これは悲劇だ。さらに2時間以上は確実に並ぶハメになる。
やっと私を先頭に家族4人が全員無事通過。やれやれ。手荷物を引き取って、ロビーに出る。
現地の旅行代理店の人が迎えに来ているはずだが、ハングル文字や中国語の文字ばかりで日本語のツアー名がない。少し不安になりながら、しかたないのでビルの外に出ると、あったあったカタカナだ~。時間は午後7時前、空はすでに暗くなりかけていた。
やはり、今回のツアーは私たちだけ。ほかの日本人向けツアー会社もいなかった。出迎えてくれた地元の代理店のフェイさんに後で聞いたら、ロビーの中に入って客待ちをするには、お金がかかるんだそうだ。ハングルや中国語圏の代理店の方が、客が多く羽振りがいいんだろう。ライジング・ジャパンは過去の話、時代は変わりつつあるんですね。
日本に一度も来たことがないというのに、流暢な日本語を話す明るいタイ女性フェイさんが、これからホテルまで連れてってくれる。私たちもうんざりだったが、いつ出てくるか分からない私たちを、2時間近くも待っていてくれたのに、いろいろ気配りのきく方で「夕方のラッシュ時だからホテルまで時間がかかるからトイレに行っていた方がいいです」「両替はそこのブースで」テキパキとアドバイス。おかげでちょっとひねくれかけていた私の根性もすっかり柔らかくノビノビしてきた。
専属状態のフェイさんとは車の中でも会話が弾み「ホテルは何階建てですか?できれば最上階で隣り合わせの部屋がいいなあ」「部屋の中にドアがあって、隣の部屋と中で行き来できるような部屋がいいんですけどね」などと調子に乗ってみんなが次々注文を付けても、携帯電話を取り出しホテルと話をしてくれたり、わがまま放題を柔らかい笑顔で受け止めてくれた。
島の北に飛行場があり、島の中心街、プーケット・タウンは中央部より少し南にある。私たちが4泊する「カタ・ビーチ」はさらに南、島では最南部にあるリゾート。だから島をほぼ縦断、さらに道はプーケット・タウンの西側を通過していくので、街の渋滞にもいやでも巻き込まれてしまい、ホテルまで1時間半あまりかかってしまったが、お陰さまで楽しい移動時間でした。
4日間お世話になるのは、カタ・ビーチの南にある「カタ・ノイ」の砂浜に沿って建つ比較的大きなホテル。レセプションは日本女性だったのでラクチンで、マンゴスティンのジュースをいただきながらのんびりとチェックインの手続き。そろそろ部屋にと、周りを見回すと4、5組が手続き中だった。この人たちも入国審査のあの進まない列にいた仲間なのかしらね。遅くなったけど、フェイさんいろいろありがとう、帰国の日にまたよろしくね。
急がないと。あわてて晩御飯に出かけることにする。「今日から、プーケットでは夜間外出禁止の時間が10時からが、深夜零時からにになりました」とフェイさんが言っていたので、そちらの方の心配ないが、すでにいい時間だ。「いい部屋ね。まあ、果物が。まあ、バスルームが。まあ、ベッドにゾウさんの形にアレンジしたバスタオルが可愛い」な~んて、部屋でのんびりしているとすぐに9時を大きく回ってしまいそうだ。
でも、ちょっと仰天したのは、バスルームとベッドルームの間に、なんと鎧戸付きの大きな「窓」が。ガラスも何も入ってなくて、音も、お風呂の蒸気も、臭いも何もかもが、フリー・ウエー状態。バスルームがガラス張り、なんてホテル、どこかのリゾートでお目にかかった記憶があるが、こんなのは初体験。いやー、びっくり。
(帰国後、息子たちと思い出話をしていると「エ~、僕たちの部屋はちゃんとガラスが入ってたけど」。おやおや、やっぱりね。おかしいと思った。まったく油断も隙もあったもんじゃない。)
ホテルで食べるという手もあるが、食事はローカルで、というのが私の「好み」である。例え息子夫婦と一緒でもこの一線はなかなか譲れない。ローカルな食堂・レストランでの食事こそ、旅の醍醐味と思い込んで40年、ガンコぶりにも年季が入っている。それに、家族の間では「おいしかった、楽しかった」という信頼の実績を積み重ねている。(“栄光の評価”の裏には、悲惨、落胆、痛恨の店選びの数々がある。しかし、みんな優しいのか、記憶力に問題があるのか、あきらめているのか、我が家の団欒では芳しくない思い出が話題に上がったことがほとんどない)
そういうわけで、今回も「食事のことはおれに任しといてちょ~うだい」と早々と宣言。調査の結果、目星を付けておいた食堂・レストランなどが集まるちょっとした町は、小さな丘を越えたカタ・ビーチにある。歩けば15分か20分くらいだが、これは全員から問題にもされず軽く却下されてしまった。
そこで。タイへ行ったら、ぜひ乗ってみたいと家族で盛り上がっていたのが軽4輪バンを改造した「トゥクトゥク」というタクシー。一部情報(かつてバンコク、プーケットを旅行した、娘の情報)によると「トゥクトゥクは、4人も乗れなかったんじゃあなかったかな~」「え~、そしたら2台になるわけ。そりゃあ参ったなあ」ってことだったが、現地で目の当たりにすると、4人どころか、6人でも乗れそうなスペースがあった。
で、タクシー乗り場で、レストラン名を告げると「分かった、200バーツ」だという。料金は聞いていた相場通り。さあ、「トゥクトゥク」だあ、と皆で盛り上がっていると、目の前に現れたのはふつーのワゴンタイプの車。これにに乗れという。「トゥクトゥク」「トゥクトゥク」とアピールしたが、無視された。ちょっと盛り上がりに水を差されたが、旅はこれから、機会はいくらでもある。
5分ほどで目的地のタイ・レストラン「The Kitchen」に到着。先客は白人系(ロシア人?)の外国人グループが二組ほど。
何はなくともまずビール。スポンジ状の素材で半分ほどビール瓶が筒状覆われたカバー?ごと瓶ビールが出てきてた。少しでもビールの冷たさを保という工夫なのだろう。熱帯の国、タイである。
そうそう、今さること25年ほど昔、タイのご近所のシンガポールへ行ったとき、路上のオープン食堂でビールをたのむと、ビール瓶と一緒に氷がいっぱい詰まったジョッキが出てきて衝撃を受けたことがあった。ビール・オン・ザ・ロックス。以来、シンガポール風?にはまってしまって、我が家では今でもキンキンのビールが飲みたいときにこれをやる。いまのシンガポールにそんな飲み方、残ってるのだろうか。(その後、パトン・ビーチの巨大スーパーに行くと、このビール用のハカマをお土産用に売っていた。タイの地元ビールのロゴが付いたハカマは確かにお土産にはいいかも)
屋根があるだけで、窓も扉もなし、開放感丸出し、開けっぴろげの食堂。涼を取るのはビルの床掃除などで使いそうな大きな業務用の扇風機。というより送風機。
ゆったりと風を送ってくれるが、ちょっと辛目でパクチーなどの香りが効いた鳥の何とかやエビの何とか、肉や野菜炒めや焼きそばとかをバクバク食べ、ビールをダラダラ飲んでると、体のあちこちから汗が浮き上がり、したたり落ちてくる。
「オネエさん、ビールもう一本」「ぷは~、タイだタイだ。いいね~」〆にこれぞタイ風、パイナップルに入ったチャーハンをいだだき、満腹、満腹。今夜のご会計、1700バーツなり。
今度こそ「トゥクトゥク」を呼んでもらおうと食堂のオネエさんにお願いしたら、「うちの車で送迎しているの。あしたは、ここへ電話してくれたら迎えに行きますよ」タダでホテルまで送ってくれるんだって。
ホテルの前にあったコンビニで缶ビールを一本買って帰って部屋に戻る。シャワーを浴びてまったりと本日〆のビールをカプッ。部屋ビールは涼しくて最高。時計を見ると11時を回っている。(時差2時間だから、エ~1時すぎッ)「明日の朝食は?」「お隣さんは9時過ぎだって」「了解、私は目が覚めたら散歩に行ってるワ」「お好きなように」「ヘイヘイ」。プーケットの夜はあっと言う間に夢の中。